東方project二次創作ブログです
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ゆかれいむログ
ピクシブから再録しております
【花散里】
美しいものだな、と思った。
幻想郷の境界を生まれ持って勝手に守っている、らしい、そんな霊夢に備わった能力は、数え上げればきりがない。もちろん、札を使って弾幕をつくることも、そのなかの一つの能力だった。
幻想郷のなかにある者とあればそういった能力は誰もがひとつやふたつは持ち合わせていて、たとえば霊夢の立っている真下で境界を作り上げる紫だって、むしろ幻想郷の妖怪としてこれまで霊夢が対峙してきたなかでは最も強い部類に入る。
だというのに。
広がる弾幕の花は広く美しかった。神社の無駄に広大にすぎる境内は、妖怪の放つ弾幕の気配に、焼け焦げまいと鳥が空高く舞い上がる。夜中だというのにその音は外に響かない。紫が、外に音が聞こえないように境界をいじっているのだろう。
桜の異変ではじめて、彼女の弾幕を見たときのことを思い出す。あの中にとらわれたかが最後、ひと思いに焼き殺されるのだろうと思えば、霊夢はどうしてもそれを振り切らなければならなかった。紫に、自分が博霊の巫女だと知られていればいるほど、なおさら。
紫は、なにもいまは霊夢に対峙しているわけではなく、唐突に神社にやってきたかと思えば、場所を貸して、と言っただけだった。幻想郷には昼も夜もないとはいうけれど、それにしたって無遠慮な話だった。もちろん、いまさらそんなことの一つや二つで彼女を責めるつもりもなかったが。
なにを始めるのだろうかと鳥居に上って見ていれば、紫はお得意の、弾幕結界のスペルカードをおもむろに展開してくれた。神社が壊れたらどうしてくれるのよ、という文句は、きちんと直すわ、というどう考えても真実味の薄い返しをされた。
それにしたって紫の結界はいつものように美しかった。自分が狩る側でなければ、あの弾幕に見とれて、捕らわれて食われることなんて分かりきっている。ふわりと広がった弾幕が、音もなく一カ所へ集中していく。ああ、花が散る、と霊夢は思った。中心に立った紫のところまで集まってきた弾幕は、そのまま音もなくふわふわと周りに散っていく。軌道に立っていればひとたまりもないだろう。
第五結界まで展開して、紫はスペルカードを懐にしまった。終わったのだろう、と勝手に判断して、霊夢はすとん、と地面に降りた。
「相変わらず見事ね。見せびらかしにきたの?」
「駄目なのよ」
「え?」
どうせ真意の見えない嫌味なのだろうと、はじめから嫌味で向かっていった霊夢に対して、紫は唐突に否定から返してみせた。彼女との意志疎通が成立しないのは毎度のことだが、それにしたって唐突にすぎて全く意図が分からない。
「あなたはやっぱり人間ねぇ」
「なんなのよ気持ち悪い」
「日々霊力が進化していくのが見えるわ。弾幕もどんどん複雑になっていく」
「そりゃあ、これでも修行してるもの」
特にこれと言ってやっている物事があるわけでもないのだが、そういわれたらそのように威張るしかないような気がして、霊夢は胸を張って言ってやった。それが適当であることはもちろんお見通しであったらしく、紫は、うそを付くのはよくないわ、と霊夢の唇に指先を押し当てた。
彼女はあまり、皮膚を触れ合わせることに抵抗がないようだった。霊夢は人の熱なんてものに慣れないので、いまだに紫の手が伸びてくるたびに、どうしていいのかわからなくなって、目線を左右にさまよわせてしまう。
紫はそんな霊夢を見て、うふふ、と笑った。指先で触れられているのに、彼女の存在がひどく遠いと思った。彼女が、気が付けば片方の手に扇子を携えていたからだろう。さきほどまでまだその手にはスペルカードがあった。いつのまに、と思った。
紫は、霊夢にとって、前提知識として、すでに最強の妖怪として存在していた。そんな紫の言うことだから、どうせあてにしてはならないのだろうとわかっていた。まかり間違っても、実力の話なんてなおのこと、あてにならないだろう。
「あなたはどんどん強くなるわ」
言い聞かせるように彼女はまた言った。
霊夢は鼻で笑う。
「紫がそういってくれるなら、私もいつか幻想郷最強になれるわね。あくまで人間として、だけど」
「あら、それはどうかしら」
紫が白い指先を霊夢の唇から離さないまま言うものだから、霊夢は紫の言葉にうまく言い返せなかった。そもそも霊夢は別に強くなりたいわけでもなく、身に降りかかる火の粉を払っておきたいだけだ。
紫だって霊夢のそんな性格を知っているはずだ。
「あなた、どこまで強くなるのかしらねぇ」
「紫でも分からないの?」
「分からないわ。未来は未知数だもの」
彼女はようやく霊夢の唇から指を離してくれた。夜においてなお鮮やかに光る金の髪と、色を冠した名前にふさわしい目が、揺らぐことなく霊夢を見ている。直接的な接触がない分だけ、よけいに捕らわれているという感覚を強く覚えた。
「ああでも、やっぱり人間は足が速いわ」
「そりゃ、比べようがないわよ。でも足が速いってのはないんじゃないの、大根じゃないんだから」
一度皮をむいた大根はずるずるになってしまうのが早い。なまものを扱うような目で紫が自分を見ていると思えば、霊夢はかえって気が楽になった。
紫が広げる弾幕の花は、彼女が願えばいつだって展開できる、彼女だけの花なのだ。そして、紫にかかれば、霊夢という存在、霊夢自身さえ、たやすく落ちてしまう花と同じなのだろう。
そんなことはとうに承知していたし、そう割り切れば紫に、たった一時の享楽で弄ばれているという自覚がわくぶんだけ、まだましなような気がしていた。
「そりゃ、紫がひと冬眠っている間に、私は一つ年を取るわ。いくつまで生きられるか分からないけれど、あと百度の冬越しなんてとてもじゃないけどつきあってあげられないわよ」
「つれないのね」
「いっそ妖怪になれ、って?」
お断りよ、と霊夢は言って、それから紫が扇子を持ったその手首をぐい、と引いた。季節はどんどん夏に向かい、夜はまだもうすこし短くなる。紫に会うことができる時間なんて本当に限られていて、せっかく冬眠から起きてきたかと思えば夜は短い。
ねえ、なにを言いたいの。
聞くに聞けない。彼女の目に映る霊夢はただのはかない人間という存在であり、彼女を捕まえること一つままならないのに。
「あなたが望めば、人妖の境界なんて簡単に越えられるんでしょう?」
「そうね、霊夢がほんとにそう望めば」
「馬鹿ね」
誰が望むものか。
誰があんたと添い遂げたいと思うものか。
何も言わない。ただ、霊夢は、手首を掴んだまま離さないし、紫はそれを振り払わない。そうして、朝がくるまで、二人は踏み越える境界を見つけることすら、ままならないまま、花さえ開かずに落ちていく。
美しいものだな、と思った。
幻想郷の境界を生まれ持って勝手に守っている、らしい、そんな霊夢に備わった能力は、数え上げればきりがない。もちろん、札を使って弾幕をつくることも、そのなかの一つの能力だった。
幻想郷のなかにある者とあればそういった能力は誰もがひとつやふたつは持ち合わせていて、たとえば霊夢の立っている真下で境界を作り上げる紫だって、むしろ幻想郷の妖怪としてこれまで霊夢が対峙してきたなかでは最も強い部類に入る。
だというのに。
広がる弾幕の花は広く美しかった。神社の無駄に広大にすぎる境内は、妖怪の放つ弾幕の気配に、焼け焦げまいと鳥が空高く舞い上がる。夜中だというのにその音は外に響かない。紫が、外に音が聞こえないように境界をいじっているのだろう。
桜の異変ではじめて、彼女の弾幕を見たときのことを思い出す。あの中にとらわれたかが最後、ひと思いに焼き殺されるのだろうと思えば、霊夢はどうしてもそれを振り切らなければならなかった。紫に、自分が博霊の巫女だと知られていればいるほど、なおさら。
紫は、なにもいまは霊夢に対峙しているわけではなく、唐突に神社にやってきたかと思えば、場所を貸して、と言っただけだった。幻想郷には昼も夜もないとはいうけれど、それにしたって無遠慮な話だった。もちろん、いまさらそんなことの一つや二つで彼女を責めるつもりもなかったが。
なにを始めるのだろうかと鳥居に上って見ていれば、紫はお得意の、弾幕結界のスペルカードをおもむろに展開してくれた。神社が壊れたらどうしてくれるのよ、という文句は、きちんと直すわ、というどう考えても真実味の薄い返しをされた。
それにしたって紫の結界はいつものように美しかった。自分が狩る側でなければ、あの弾幕に見とれて、捕らわれて食われることなんて分かりきっている。ふわりと広がった弾幕が、音もなく一カ所へ集中していく。ああ、花が散る、と霊夢は思った。中心に立った紫のところまで集まってきた弾幕は、そのまま音もなくふわふわと周りに散っていく。軌道に立っていればひとたまりもないだろう。
第五結界まで展開して、紫はスペルカードを懐にしまった。終わったのだろう、と勝手に判断して、霊夢はすとん、と地面に降りた。
「相変わらず見事ね。見せびらかしにきたの?」
「駄目なのよ」
「え?」
どうせ真意の見えない嫌味なのだろうと、はじめから嫌味で向かっていった霊夢に対して、紫は唐突に否定から返してみせた。彼女との意志疎通が成立しないのは毎度のことだが、それにしたって唐突にすぎて全く意図が分からない。
「あなたはやっぱり人間ねぇ」
「なんなのよ気持ち悪い」
「日々霊力が進化していくのが見えるわ。弾幕もどんどん複雑になっていく」
「そりゃあ、これでも修行してるもの」
特にこれと言ってやっている物事があるわけでもないのだが、そういわれたらそのように威張るしかないような気がして、霊夢は胸を張って言ってやった。それが適当であることはもちろんお見通しであったらしく、紫は、うそを付くのはよくないわ、と霊夢の唇に指先を押し当てた。
彼女はあまり、皮膚を触れ合わせることに抵抗がないようだった。霊夢は人の熱なんてものに慣れないので、いまだに紫の手が伸びてくるたびに、どうしていいのかわからなくなって、目線を左右にさまよわせてしまう。
紫はそんな霊夢を見て、うふふ、と笑った。指先で触れられているのに、彼女の存在がひどく遠いと思った。彼女が、気が付けば片方の手に扇子を携えていたからだろう。さきほどまでまだその手にはスペルカードがあった。いつのまに、と思った。
紫は、霊夢にとって、前提知識として、すでに最強の妖怪として存在していた。そんな紫の言うことだから、どうせあてにしてはならないのだろうとわかっていた。まかり間違っても、実力の話なんてなおのこと、あてにならないだろう。
「あなたはどんどん強くなるわ」
言い聞かせるように彼女はまた言った。
霊夢は鼻で笑う。
「紫がそういってくれるなら、私もいつか幻想郷最強になれるわね。あくまで人間として、だけど」
「あら、それはどうかしら」
紫が白い指先を霊夢の唇から離さないまま言うものだから、霊夢は紫の言葉にうまく言い返せなかった。そもそも霊夢は別に強くなりたいわけでもなく、身に降りかかる火の粉を払っておきたいだけだ。
紫だって霊夢のそんな性格を知っているはずだ。
「あなた、どこまで強くなるのかしらねぇ」
「紫でも分からないの?」
「分からないわ。未来は未知数だもの」
彼女はようやく霊夢の唇から指を離してくれた。夜においてなお鮮やかに光る金の髪と、色を冠した名前にふさわしい目が、揺らぐことなく霊夢を見ている。直接的な接触がない分だけ、よけいに捕らわれているという感覚を強く覚えた。
「ああでも、やっぱり人間は足が速いわ」
「そりゃ、比べようがないわよ。でも足が速いってのはないんじゃないの、大根じゃないんだから」
一度皮をむいた大根はずるずるになってしまうのが早い。なまものを扱うような目で紫が自分を見ていると思えば、霊夢はかえって気が楽になった。
紫が広げる弾幕の花は、彼女が願えばいつだって展開できる、彼女だけの花なのだ。そして、紫にかかれば、霊夢という存在、霊夢自身さえ、たやすく落ちてしまう花と同じなのだろう。
そんなことはとうに承知していたし、そう割り切れば紫に、たった一時の享楽で弄ばれているという自覚がわくぶんだけ、まだましなような気がしていた。
「そりゃ、紫がひと冬眠っている間に、私は一つ年を取るわ。いくつまで生きられるか分からないけれど、あと百度の冬越しなんてとてもじゃないけどつきあってあげられないわよ」
「つれないのね」
「いっそ妖怪になれ、って?」
お断りよ、と霊夢は言って、それから紫が扇子を持ったその手首をぐい、と引いた。季節はどんどん夏に向かい、夜はまだもうすこし短くなる。紫に会うことができる時間なんて本当に限られていて、せっかく冬眠から起きてきたかと思えば夜は短い。
ねえ、なにを言いたいの。
聞くに聞けない。彼女の目に映る霊夢はただのはかない人間という存在であり、彼女を捕まえること一つままならないのに。
「あなたが望めば、人妖の境界なんて簡単に越えられるんでしょう?」
「そうね、霊夢がほんとにそう望めば」
「馬鹿ね」
誰が望むものか。
誰があんたと添い遂げたいと思うものか。
何も言わない。ただ、霊夢は、手首を掴んだまま離さないし、紫はそれを振り払わない。そうして、朝がくるまで、二人は踏み越える境界を見つけることすら、ままならないまま、花さえ開かずに落ちていく。
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